第14回
12月13日はアランチーネDAY!サンタルチアのお祭り
12月と言えば誰しもが思い浮かべるのがクリスマス!
シチリアでも街にはイルミネーションが灯り、クリスマスのプレゼントをショッピング。
皆が浮足立つシーズンです。
シチリア人にとってのクリスマスは宗教的意味を強く含み、日本のクリスマスとは少し感覚が違う事は、昨年の本コラム第2回でもお話しました。
そんな宗教的なクリスマスシーズンの最中、更にキリスト教の言い伝えによって生まれた「この日にこれを食べる!」日があるのです。
それが12月13日のサンタルチアの日。
この日には街中にアランチーネが溢れかえる、アランチーネDAYなのです。
西のアランチーネ、東のアランチー二
アランチーネは味のついたお米で具を包んで揚げたライスコロッケ。
オレンジ(アランチャ)に形が似ている事からアランチーネと呼ばれています。
シチリアを旅行した方なら一度は見かけたことがあるでしょう。
シチリア西部では「アランチーネ」と呼ばれるこのライスコロッケ、シチリア東部にいくと「アランチーニ」と呼ばれるようになります。
世界全国的にみれば「アランチーニ」の方が一般的かもしれませんが、名前の由来となったオレンジは「アランチャ」という女性形の単語。
「アランチーニ」は男性形。
「ナ」か「二」、語尾のたった1つの違いですが、トラーパニで「アランチーニ」と呼ぶと、周りから「アランチーネよ!」という言葉が必ず聞こえてくるほど、シチリアの人々のこだわりは強く、アランチーネが愛されていると言えるでしょう。
サンタルチアには何故アランチーネを食べるの?
それではなぜ、サンタルチアの日にアランチーネを食べる習慣ができたのでしょう?
サンタルチアはシチリア島の南東部にある街シラクーサの守護聖人。
シラクーサ出身の若い貴族の女性でローマ皇帝によるキリスト教迫害時代、304年12月13日に殉教死しました。
目の病気を治す聖人としても知られています。
時は過ぎて1600年代、スペインの支配下にあったシチリアに大飢饉が起こりました。
このままでは大きな被害が出てしまう…と皆が嘆いていた時、小麦を満載した船が港に到着。
民は小麦を粉にせず、そのまま茹でてむさぼるように食べたと。
その船が港に到着したのはサンタルチアが殉教死した12月13日。
サンタルチアが奇跡を起こし、民が救われたと言われるようになりました。
そんな伝説から、12月13日には粉を使ったもの、つまりパンやパスタは食べない、という習慣がうまれました。
そのかわりに食べるのが丸麦と米。
そしてシチリアで米を使った料理の代表といえばアランチーネ!
バールには色々な種類のアランチーネがズラリ!
私が修行時代にトラーパニで働いていたバールでは、この日はアランチーネで大盛り上がり!
アランチーネは、塩やこしょうで味を付けて炊いたお米を冷まし、具を包んで丸め、軽い衣を付けて揚げます。
シチリアの気軽に食べれるストリートフードの代表格。
気軽に食べれる存在でありながら、作ってみると意外と手間がかかります。
1年中店頭に並ぶ基本的なアランチーネは、「カルネ」と呼ばれるミートソース入り、そして「アル・ブッロ」と呼ばれるハムとチーズ入りの2種類。
でもサンタルチアの日には、イカ墨、魚介類、キノコ、はたまた甘いアランチーネまで…
様々な変わりアランチーネが店頭を賑わせます。
数日間かけて準備したアランチーネが飛ぶように売れていく!
お持ち帰りしてオフィスで同僚と食べたり、お昼ごはんとして自宅で食べる人もいます。
私も12月13日のお昼ごはんは決まって以前働いていたバールに行ってアランチーネを頬張るのが恒例。
揚げたてアツアツのアランチーネは最高に美味しい!
麦のシチリア伝統菓子 クッチーア
サンタルチアの日には、アランチーネの他、クッチーアというお菓子を食べるのがシチリア全土の伝統。
麦を茹でて、様々な甘い風味で味をつけます。
粉から作ったパンやパスタは食べませんが、麦をそのまま茹でたものならOK。
伝統的なのは搾りたてのブドウジュースを煮詰めたヴィンコットで味をつけたもの。(第13回コラム参照)
その他、リコッタ、オレンジ、チョコレートなど色々な風味がありますが、私が一番好きなのは伝統のヴィンコット風味。
プチプチした麦の食感に夏の果実の風味が詰まったヴィンコットが染み込んだクッチーアは、今までに食べたことのないお菓子。
クッチーアは元々家庭のお菓子なので、普段は店先で売ることはありませんが、サンタルチアの日だけは特別。
バールや総菜屋さんに並びます。
先月はサンマルティーノの日、そして今月はサンタルチアの日、こうして見てみるとシチリアの食文化がいかにキリスト教と密接に関わっているかが分かります。
こうした習慣は今でも人々の生活に根付いていて、キリスト教徒ではない私にも季節感を感じさせてくれる行事なのです。
さて、今月のレシピはクリスマスカラーの温サラダです。
レシピ
少なめに盛れば前菜に、しっかりと盛ればメインディッシュに。
レモンの美味しさで野菜もたっぷりと召し上がっていただく事ができます。
ルーコラがなければサラダほうれん草など、火が入りやすい青菜で代用できます。 レシピはこちら
ラ ターボラ シチリアーナ主宰。シチリア島トラーパニ在住。シチリア料理・菓子 スペシャリスト。イタリア料理・菓子の知識を生かし、大手企業で洋菓子の商品開発、カフェの店舗企画に従事。2004年、シチリア(イタリア)食文化を学ぶため、イタリアに渡り、現地にてシチリア郷土菓子や家庭料理を研究しながら、食に関するコーディネートや通訳などで活躍しています。
「ポッカレモン有機 シチリア産ストレート果汁」を使ったレシピを監修していただいています。