第13回
11月11日、サンマルティーノの日には今年のワインが出来上がる!
10月最後の日曜日で終わるサマータイム。
サマータイム中は1時間、時計の針が先に進んでいるため、10月でも夜7時頃までは明るく。
11月になるとサマータイムも終了して、1時間時計の針が戻り夕暮れも早くなり、
一気に秋が深まってくる感じがします。
毎日快晴が続き雲が少ない夏に比べ、11月の空には雲が増えてきます。
空の色も、雲の数や量も真夏とは少し違う、秋ならではの美しい風景を眺める事が出来ます。
11月11日にはワインができる!
さて、9月号でご紹介したように、シチリアでは8~9月にかけてブドウの収穫が行われます。
「A San Martino ogni mosto diventa vino. (聖マルティーノの日にはブドウジュースがワインになる)」
という古い諺がシチリアにはあります。
イタリアではオノマスティコと言って、毎日その日の聖人が制定されています。
11月11日は聖マルティーノの日。
かつて、ワインの醸造方法は今のような最新テクノロジーがなかったため、11月11日の聖マルティ―ノの日になると、ブドウジュースがワインになっている、という大体の目安の日だったそうです。
この日は新酒を味わうべく様々な土地で様々な習慣があります。
かつては家族のためのワイン造りを家でしていた人も多かったトラーパニ。
現在、ワインを造る人は減ってきたものの、今でも多くの人が続けているサンマルティーノの伝統があります。
この時期限定!パン屋に並ぶフワフワパン ムッフォレッタ
11月に入るとトラーパニのパン屋さんにはムッフォレッタと呼ばれるパンが並び始めます。
このパンは、通常私達が食べているパンより加える水分量が非常に多いため、食感はフッワフワ!
そして必ず入るフェンネルシード(もしくはアニスシード)が独自の爽やかさを与えてくれます。
トラーパニに住み始めた2005年、現在の夫のマンマ(つまり現在の姑)から電話がありました。
「今日はサンマルティーノよ!ムッフォレッタを焼いたから食べにいらっしゃい!」
当時は料理留学中で、とあるトラーパニの小さなレストランで働いていた私は、初めてのムッフォレッタにとってもワクワクしたことを覚えています。
「昔はね、ムッフォレッタはブドウジュースを煮詰めて作るヴィンコットに浸して食べたのよ。」
と、マンマは自家製のヴィンコットと一緒にムッフォレッタを食べさせてくれました。
ヴィンコットとはブドウジュースを1/3くらいの量になるまで煮詰めたもの。
トロ~ンとした黒い液体で、自然の甘さが凝縮されていて、その濃厚な味はなんとも言えず美味しい!
ヴィンコットはシチリアで作られる糖度の高いブドウを使って天然の甘みを凝縮させたもので、昔から使われていた100%天然素材で作られた甘味料。
かつては喉の調子が悪い時に舐めたりと、薬としても使われていたそうです。
フワフワのムッフォレッタをヴィンコットに浸してみると、パンにたっぷりと染み込んでいくヴィンコット。
頬ばってみると、口いっぱいにジュワー!と広がる芳醇な味わい!
わ~、美味しい!すごいぞヴィンコット!
その美味しさに興奮して夢中になって食べたことを想い出します。
また、その翌年にはランチの前にまたマンマから電話がありました。
「今年はムッフォレッタをパニーニにするから、いらっしゃい!」
ムッフォレッタとヴィンコットはマンマ世代の古い伝統らしく、現在はムッフォレッタにモルタデッラを挟んで食べるのが主流。
モルタデッラとは北イタリアのエミリア・ロマーニャ州の州都ボローニャの伝統的な巨大ソーセージ。
トラーパニの伝統食材ではありません。
「どうしてモルタデッラなの?」
と、たくさんの人に聞いてみたのですが、その真相は未だわかりません。
私が思うには、モルタデッラに入った脂肪の塊が、柔らかい生地のムッフォレッタに染み込み一体化して美味しくなるのでは…と。
事の真相はわかりませんが、ムッフォレッタとモルタデッラが非常に合う事は間違いありません。
そしてこのパニーニを頬ばりながら楽しむフレッシュな新酒の美味しいこと!
赤ワインに浸すビスコッティ ディ サンマルティーノ
パン屋さんにはムッフォレッタが並ぶサンマルティーノですが、お菓子屋さんにはビスコッティ ディ サンマルティーノが並びます。
これはムッフォレッタとは逆で、非常に硬いガリガリしたビスコッティ。
これを新酒に浸して食べるのが習慣。
ビスコッティ ディ サンマルティーノにもフェンネルシードが入ります。
おそらく今の時期、畑を散歩してみるとフェンネルの花の後にたくさんの種が付いています。
だからムッフォレッタにもビスコッティ ディ サンマルティーノにも入るのかな?
実は私、このガリガリビスコッティが大好きです。
ただ、1年中、お菓子屋さんに並ぶわけではないので、時期外れに食べようと思うと自分で作るしか方法はなく、このビスコッティを新酒に浸しながら過ごす秋の夜長は、サマータイムが終わってちょっと寂しい時期のお楽しみでもあります。
流行より伝統を重んじるシチリア
新酒と言えば世界全国でボジョレーヌーボーを楽しむのが流行となっている今日この頃。
イタリアでもノヴェッロと言われる新酒が出回る季節でもあります。
ところが私が住むトラーパニではノヴェッロはスーパーに少し並ぶくらいで、しかもそれを買って楽しむ人は私の周りにはほとんどおらず、多くの人がシチリアの伝統を大切にしている証拠かと思います。
シチリアに伝わる様々な食の伝統は、忙しい日常生活の中でも季節感を感じさせてくれる大切な行事。
私のシチリアでの食生活をとても豊かにしてくれているのです。
さて、今月のレシピは秋の味覚、きのこを使ったパスタです。
レシピ
きのこを白ワインとポッカレモン有機シチリア産ストレート果汁で軽く煮て、平たいパスタ タリアテッレに合わせました。
秋の夜長に白ワインと一緒にお楽しみいただきたい一皿です。 レシピはこちら
ラ ターボラ シチリアーナ主宰。シチリア島トラーパニ在住。シチリア料理・菓子 スペシャリスト。イタリア料理・菓子の知識を生かし、大手企業で洋菓子の商品開発、カフェの店舗企画に従事。2004年、シチリア(イタリア)食文化を学ぶため、イタリアに渡り、現地にてシチリア郷土菓子や家庭料理を研究しながら、食に関するコーディネートや通訳などで活躍しています。
「ポッカレモン有機 シチリア産ストレート果汁」を使ったレシピを監修していただいています。