第12回
緑の宝石、オリーブの収穫!
9月のブドウの収穫に続き、10月はオリーブの収穫シーズン!
この時期は私の友人の間で「今年のオリーブ収穫はいつかしら?」という話題が絶えません。
オリーブはイタリア全土で栽培されていますが、その中でも最も早く始まる地方のひとつと言われているトラーパニ。
トラーパニのオリーブ収穫シーズンは10月上旬から12月上旬にかけての2か月間。
イタリア中部より1か月ほど早く収穫がはじまります。
秋というにはほど遠いほど暑い中、オリーブ収穫は行われます。
オリーブの収穫は家族総出で!
トラーパニでは家族でオリーブ農園を持っている人もたくさんいます。
オリーブはちょうどよい熟し具合の時に一気に収穫しなければならないので、
週末に子供からおじいちゃん・おばあちゃんまで、家族総出で収穫します。
大きな農園を持っている人は、平日に仕事を休んでオリーブの収穫をする人もいます。
オリーブの収穫は木の下にグリーンの大きな網目のシートを敷くところからはじまります。
シートを敷き終わったらいよいよ収穫です!
家庭では手、もしくは小さなプラスチックの熊手のようなものを使って網の上に落としていきます。
高いところはハシゴに上って収穫。
そして1本分、全ての実を収穫したらシートの端と端を寄せて、ケースに入れて運びます。
収穫したオリーブは太陽にキラキラと光り…眩いほど美しく、まるで緑色の宝石のよう!
自然界に存在する色は、人間の手では作り出せない美しさだな、と毎年感動します。
お昼ごはんは決まってオリーブの木の下でパニーニを頬張ります。
オリーブの木を眺めながら食べるパニーニは本当に美味しく、ちょっとしたピクニック気分。
30分ほど休憩したら、また収穫!
こうして朝から夕方まで収穫を続け、夕方にはいよいよオリーブオイルを搾ります!
搾りたてオリーブオイルは驚くほどフレッシュ!
オリーブオイルを搾るためにはフラントイオと呼ばれる搾油所に持って行かなければなりません。
夕方のフラントイオは、たくさんの人がその日に収穫した自分のオリーブを持ってきていて、オリーブオイルが搾られるのを待っています。
オリーブを持って行くと、大きなケースに入れられてケースに名前が貼られます。
そして順番が来ると、オリーブの重量が計られ、ついに搾油機に入って いきます。
オリーブオイルが出来上がるまでは搾油機に入れられてから約1時間。
待っている間は、
「今年のオリーブはどうだったかい?」
と、言いながら、近所の人が持ってきたオリーブを覗きつつ、オリーブ談義に花が咲きます。
そうこうしている間に、フラントイオの人から、
「オリーブオイル、出るよ~」
と声がかかり。
家から持参した保存用のタンクを持って、オリーブオイルが出てくるのを待っていると…
出てきた!
真緑な、蛍光とも言えるような鮮やかなグリーンのオリーブオイル!
むせび返すような強烈なグリーンの香りと共に、オリーブオイルが流れ出てきます。
わぁ~、すごいすごい!
最初にこの光景を目にした時には、鮮やか過ぎるほどのグリーン色に感動!
小さなカップで搾りたてのオリーブオイルを試飲してみると…すっごくフレッシュ!
目で見た色の通りのグリーンで爽やか、そして苦みと辛味が後からやってくる。
シチリアの大地を感じさせるようなオリーブオイルの出来上がりです!
1年間、家族で大切に毎日の料理に使われるのです。
シチリア料理に欠かせないオリーブオイル
さて、日本でも近年、使う人が増えてきたオリーブオイルですが、
シチリアでは毎日の食卓に欠かせない調味料のひとつです。
イタリアは各地方に郷土料理が伝わりますが、基本は「その土地にある食材を使った料理」。
酪農が盛んな北部ではバターをたくさん使いますが、シチリアはオリーブの栽培に非常に適した土地。
太古の昔からオリーブの木が栽培され、オリーブオイルが使われていました。
イタリアはとても多くの品種のオリーブの木が栽培されていることで有名ですが、
トラーパニ近郊で栽培されているのは主にビアンコリッラ種、チェラスォーラ種、ノチェッラーラ種の3種。
ビアンコリッラ種は、色が薄くて熟し始めると美しいリラ色になることからこの名が付いたとのこと。
とてもデリケートで魚料理によく合います。
チェラスォーラ種は、トラーパニのオリーブの主力選手で、苦みが強い品種ですが、その用途は万能!
どんな料理も美味しく仕上げてくれます。
ノチェッラーラ種はピリッと辛めでフレッシュ感が強いオリーブオイル。
バニラ味のジェラートにかけて食べると、オリーブオイルのフレッシュ感が引き立ちます。
このように、品種によって特徴が違うオリーブオイルですが、家族でオリーブ農園を持っている人は大抵、全ての品種を一緒に収穫して搾油します。
その家族のオリジナル自家製オリーブオイルが出来上がるのです。
そしてこの自家製オリーブオイルがシチリアのマンマが作り出すほっこりと美味しいシチリア家庭料理の原点といえるでしょう。
私達の60本のオリーブの木
私の義父は、200本のオリーブの木を手塩にかけて育てていました。
高齢だったため段々手入れをするのが難しくなってきた義父から、5年前のある日、30本の古いオリーブの木と隣の土地を夫と私で譲り受けました。
隣の土地には30本の新しい苗木を植え、現在、合わせて60本分の木から収穫できるオリーブで、毎年オリーブオイルを造っています。
古いオリーブの木は義父が子供の時に、お父さんと一緒に接木をして育てたという思い入れの強い樹齢80年以上の木。
義父はいつも、「このオリーブの木達はね、自分の子供と同じくらい大切に育ててきたんだよ。」と愛おしそうに話していました。
義父からはオリーブについて、オリーブオイルについて、自然界の事について、今の私の知識のベースを作ってくれたと言っても過言ではないほど、数えきれないほどたくさんの事を教わりました。
まだまだ教わりたい事がたくさんあったのですが、残念ながら去年他界してしまった義父。
今度は私達が義父に変わってこの30本の古い木と、私達が植えた30本のオリーブの木、合計60本のオリーブの木達を守っていきたいと思います。
今年も近づいてきた、オリーブの収穫。
さて、今年はどんなオリーブオイルができるのでしょうか?
今から楽しみでなりません!
さて、今月の料理は、レモンとツナのリゾットです。
レシピ
ドライトマトでだしを取りながら米を炊いていく簡単リゾット。
決め手は最後にかけるレモン汁とオリーブオイルのソース!
爽やかなシチリアの風が駆け抜けます。
レシピはこちら
ラ ターボラ シチリアーナ主宰。シチリア島トラーパニ在住。シチリア料理・菓子 スペシャリスト。イタリア料理・菓子の知識を生かし、大手企業で洋菓子の商品開発、カフェの店舗企画に従事。2004年、シチリア(イタリア)食文化を学ぶため、イタリアに渡り、現地にてシチリア郷土菓子や家庭料理を研究しながら、食に関するコーディネートや通訳などで活躍しています。
「ポッカレモン有機 シチリア産ストレート果汁」を使ったレシピを監修していただいています。