第11回
9月はブドウの収穫の季節です!
連日猛暑が続く8月が終わった9月のシチリア。
まだまだ強い日差しと残暑は続くものの、時折吹いてくる爽やかな風は、
あ~、今年も夏のピークは過ぎたのだな~…と感じさせてくれます。
9月のシチリアの風物詩と言えばブドウの収穫!
ブドウといっても食用ではなくワインを造る用のブドウです。
この時期は、田舎道を車で走っているとあちらこちらでブドウの収穫に出会います。
トラーパニの白ワインはミネラル感たっぷり!
私の住むトラーパニ近郊は昔から白ワイン用の白ブドウを栽培するのに適した土地と言われています。
主に栽培される品種は、グリッロ種、カタラット種、インツォリア種の3種類。
もちろん他にも多くの品種が栽培されていますが、現在もこの3種のシチリアの伝統品種を中心に栽培されています。
トラーパニでは海にほど近いところにブドウの木が植わっているところも多く、
海風を受けて育つため、トラーパニのワインはちょっと塩気を感じるほどミネラル感にあふれるワインが多いのが特徴です。
シチリアの乾いた夏にピッタリ!
ワインは造られた土地で飲むのが一番美味しい、と良く言われますが、
夏の暑い日にキリっと冷やしたトラーパニの白ワインをトラーパニで味わう時は、本当にその意味が心からわかるような気がする瞬間です。
9月はワイナリーで勉強できる1年に1回のチャンス
トラーパニのブドウの収穫はイタリアの中でも最も早く始まる地域のひとつと言われています。
早いところでは8月10日頃から収穫が始まり、そして9月に入ると最盛期を迎え、ワイナリーは1年で一番の大忙しの時期となります。
多くのワイナリーは最新のテクノロジーを駆使した設備が整いますが、やはり重要なのは人間の目と人間の手。
この時期はエノロゴと呼ばれるワイン生産の司令塔である醸造家もワイナリーに常駐している事が多いため、私も9月には知り合いのワイナリーを訪問して、ワイン造りの工程や、発酵途中のワインを試飲させてもらい、今年のブドウの状況やワイン造りの話などを色々と聞かせていただきます。
ワイナリーでワインの実践的な勉強ができる1年に1回のチャンス。
シチリア生活のいいところはこうして生産者と消費者の距離が非常に近いところ。
自然の中で季節と共に生活していることを実感できます。
永遠のワイン、ペルペトゥオ
現在のように最新の醸造テクノロジーがなかった昔は、ワインと言えば赤ワインでした。
しかし、前にもふれたようにトラーパニは赤ワイン用のブドウより、白ワイン用のブドウが適した土壌。
そのためトラーパニ近辺ではその白ワインを使った独自製法のワイン「ペルペトゥオ」が造られていました。
シチリアは太陽の力が非常に強いため、ワインに非常に重要な酸度と糖度が非常に高い、ワインに向いたブドウが生産することができます。
そんなポテンシャルの高いブドウからできるのは自然に発酵させるだけでアルコール度数が16%まで上がる非常にアルコール度数の高いワイン。
(通常の白ワインは12~13度のものが多いです)
アルコールはワインにとって最強の保存料となるので、赤ワインに比べて保存性が劣る白ワインでも、長い間保存が可能なワイン造りができたのです。
太陽の恵みがあってこそのワイン造りともいえるでしょう。
そして更にアルコール度数を上げ保存性を良くするために、毎年、新しくできたワインを継ぎ足していきます。
長年かけて熟成されるワインは最終的には18度くらいまでアルコール度が上がります。
こうして造られたワインが「ペルペトゥオ」。
ラテン語で「永遠」という意味を持つこのワインは、毎年、その年に造った新しいワインを継ぎ足していくことで、その名の通り何十年、いや何百年と保存が可能となるのです。
かつては各家庭には必ずペルペトゥオ用の樽が一つあって、結婚式や出産など、家族の大切なお祝い事の時に振る舞われていたそうです。
そして親から子へ…と代々受け継がれ、永遠に続くワインとなっていったのです。
長い年月をかけて造られたペルペトゥオはキラキラと輝く琥珀色。
ドライフルーツのような、バニラのような…なんとも言えない熟成した香り、まろやかな独自の風味。
その樽ごとに家族の長い歴史が詰まっているかと思うと、とても感慨深いものがあります。
現在は残念ながら継手不足で伝統を継いでいく家庭も少なくなり、そんな伝統を守るべくペルぺトゥオ博物館と名付け、継手のいなくなったペルペトゥオを守ろうとするワインの生産者も出てきました。
近年、若い世代が改めて農業に目を向け始めてきたシチリア。
ペルペトゥオの伝統が続いていくことを祈るばかりです。
小さな村の収穫祭
トラーパニ近郊の小さな村ではブドウの収穫を祝い、感謝する収穫祭が行われます。
現在、シチリアでは多くの街で観光客を呼ぶための町おこし的な食のお祭りが行われていますが、この小さな村の祭りの参加者はほとんど地元の人達。
ブドウを始め、農業を中心に生計を立てる人が多いこの村では、ブドウの収穫を祝い感謝し、また翌年の豊作を祈るためのお祭りが行われます。
シチリアの民族衣装を着た地元の人々が馬に乗り、かつて使っていたワイン造りのための道具を改造した荷台に乗り、村を練り歩きます。
大きな牛2頭が引く荷台にはブドウがたくさん乗っていて、お祭りに来た人々にブドウが振る舞われます。
大人から子供まで、たくさんの人が参加するこのお祭りを、村の人達はこの日をとても楽しみにしています。
告知はほとんどされず、口コミだけで広がるこのお祭りですが、村の人達の熱気が伝わってきます。
自然と対峙する農業はここ数年の異常気象で毎年難しくなっていくばかり。
美味しいブドウ、そしてワインを造り、私達を楽しませてくれる生産者の方々に心から感謝をしたいと思います。
さて、今月は残暑を乗り切るためにひんやりとしたデザートを紹介します。
レシピ
シチリアの食後の定番、レモンのソルベット。
ミントをたっぷりと入れた清涼感溢れるレモンのソルベットに泡立てた卵白を加え、滑らかな食感に仕上げました。
ヒンヤリと爽やかなレモンのソルベットで、厳しい残暑を乗り切りましょう!
レシピはこちら
ラ ターボラ シチリアーナ主宰。シチリア島トラーパニ在住。シチリア料理・菓子 スペシャリスト。イタリア料理・菓子の知識を生かし、大手企業で洋菓子の商品開発、カフェの店舗企画に従事。2004年、シチリア(イタリア)食文化を学ぶため、イタリアに渡り、現地にてシチリア郷土菓子や家庭料理を研究しながら、食に関するコーディネートや通訳などで活躍しています。
「ポッカレモン有機 シチリア産ストレート果汁」を使ったレシピを監修していただいています。