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シチリアからの風~マンマに教わったとっておきレシピ~

シチリア島トラーパニ在住でシチリア料理・菓子 スペシャリストの佐藤礼子さんから、シチリアの暮らしと食、とっておきのレシピをお届けします。

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小麦の収穫の季節です ~ 古代小麦とシチリアのパン

6月になるとシチリアはもう夏気分!
5月まで野原に生えていた草もすっかり枯れ、辺り一面が土色となってくる季節です。
その代りに見られるのが、ユラユラと風になびく穂が一面に広がるキラキラと輝く小麦畑。
そう、シチリアでは6月は小麦の収穫の季節です!

シチリアは古代ローマ帝国時代の穀物倉庫 ~硬質小麦と軟質小麦

古代ローマ帝国時代、シチリアは「ローマの穀物倉庫」と言われていました。
このことからも、シチリアがいかに小麦の栽培に適していた土地だったかが分かります。
広大な土地に広がる小麦畑は昔も今も、きっと同じ風景だったのでしょう。

シチリアで栽培されている小麦は「硬質小麦」。
日本とイタリアの粉の分類の仕方は異なり、日本のように、薄力粉・強力粉という区別はイタリアではしません。
まずは硬質小麦なのか、軟質小麦なのかで分類されます。
ちなみに日本で「薄力粉」と言われている粉は軟質小麦からできています。
一方、乾燥パスタを作っている小麦は硬質小麦。
パスタのパッケージに「デュラム・セモリナ粉100%」と書いてあるのを見たことありませんか?
デュラムは硬質小麦の種類の名前、セモリナ粉は“粗挽きした“という意味。
つまり、「粗挽きした硬質小麦(デュラム小麦)」という意味です。
一般的には北では軟質小麦の栽培が、南では硬質小麦の栽培が適していると言われているのですが、硬質小麦の大生産地のシチリアでは、パスタも、パンも、そして時にはドルチェ(お菓子)まで硬質小麦で作られます。

昔は今のように流通手段が発達していなかったため、食事はその土地で作られているものを使って作るしかありませんでした。
南北に土地が広がるイタリアでは寒い土地から温暖な土地まで、その土地で栽培されている食物はかなり異なり、それに加えて様々な国からの侵略によりその土地に新たなる食文化がもたらされ、こうして地方色の強いイタリア郷土料理が産まれたと言われています。

硬質小麦100%で作った手打ちパスタやパンはモチモチしていてとっても美味しく、私のシチリアを旅したら是非食べて頂きたいリストの上位にランクインしているほど豊かな粉の風味を感じていただく事ができるのです。

  • 一面に広がる小麦畑。一面に広がる小麦畑。
  • 少し黄色がかっているのが硬質小麦、白いのが軟質小麦。触ってみると感触も違います。少し黄色がかっているのが硬質小麦、
    白いのが軟質小麦。触ってみると感触も違います。

古代小麦で美味しく健康に!

シチリアでは普通にスーパーなどで流通している硬質小麦に加えて、多くの種類の古代小麦が栽培されています。
さて、古代小麦とはなんでしょう?
小麦は1990年前半以降、収穫量の増加、そして収穫時の利便性を求め、品種改良がされてきました。
そのため、私達はとても安価に小麦が安定して購入できるようになってきたのですが、品種改良により本来のグルテン量が増えてしまい、小麦アレルギーになる人が増えてしまいました。
そこで注目されたのが古代小麦。
古代小麦とは人間の手を加えて改良される前の小麦を指します。
古代小麦はアレルギー源となるグルテンの量が少なく、また繊維質、ビタミン、ミネラルが多いと言われ、健康志向が高まるイタリアでは大きく注目されています。
その古代小麦生産の舞台のひとつとなっているのがシチリア。
シチリアではイタリアや世界で古代小麦が注目される前から、代々古代小麦を栽培している農家さんも多く、近年では、古代小麦は体に良い、という噂を聞いて、品種改良された小麦の栽培から古代小麦の栽培に転換する若い世代もたくさんいます。

  • 古代小麦農家のビートさん。古代小麦についていつも熱く語ってくれます。古代小麦農家のビートさん。古代小麦についていつも熱く語ってくれます。
  • 古代小麦は1m以上と膝丈の改良された小麦よりもかなり長い。古代小麦は1m以上と膝丈の改良された小麦よりもかなり長い。

復活した古代小麦パン、カステルヴェトラーノの黒パン

トラーパニのカステルヴェトラーノという街では、Pane Nero(パーネ ネーロ=黒いパン)と呼ばれる、古代小麦を使った昔から続く製法のパン作りの伝統があります。
古代小麦は小麦の全てを石臼の粉挽機で挽いた全粒粉となります。
カステルヴェトラーノのパーネ ネーロは古代小麦100%で作るため、名前の通り少し黒いのが特徴。
しかし、安価な小麦を使ったパンが近年主流となり、古代小麦パンを作るパン屋さんも少なくなってきていました。
そこで古代小麦パン パーネ ネーロの伝統を守ろう!と、スローフードトラーパニ支部が、伝統食材や生産者を守るためのプレシディオ食材として認定することで、少しずつ注目されるようになってきて、その噂は少しずつ広まり、近年の健康ブームに乗り、パーネ ネーロも復活。
現在はカステルヴェトラーノのパン屋さんならどこでも作っている、という街の名物パンとなりました。

カステルヴェトラーノの古代小麦パンは、

① 古代小麦Tumminia種(トゥンミニア種)が使われている事
② 古代小麦と水から起こした自然酵母が使われている事
③ オリーブの木を燃料とした石窯で焼き上げられている事

つまり古来の作り方を守っていないと、カステルヴェトラーノの古代小麦パンとは呼べないのです。
ちょっと甘みがあるこのパン、その風味は古代小麦がもたらせるもの。
カステルヴェトラーノの気候風土ではなくては育たないと言われる自然酵母を使って、じっくりと醗酵させ、そしてオリーブの木を燃料とした石窯でこんがりと焼かれたパーネ ネーロ。
一度食べたらもう病みつき!
私は週に1度、カステルヴェトラーノから市場に売りに来るパン屋のおじさんから毎週買っています。
美味しくて健康、私にとってはまさに理想のパンなのです。

  • 石窯の燃料として使われるオリーブの枝。石窯の燃料として使われるオリーブの枝。
  • パーネネーロは石窯で焼きます。 パーネネーロは石窯で焼きます。
  • カステルヴェトラーノの老舗リッツォ。カステルヴェトラーノの老舗リッツォ。

シチリア人の粉へのこだわり

シチリアに住み始めた頃に友人宅を訪れた時のこと。
「ちょっと隣の製粉所で挽きたての粉を買ってくるわ」
挽きたての粉!?
友人曰く、スーパーで売っている粉は製粉してから時間が経っているために風味が弱いと。
日本でも料理の仕事をしていた私ですが「粉の鮮度」について考えたことはありませんでした。
挽きたての粉が気軽に買えるシチリア、そしてそれにこだわるシチリア人…ショックを受けた1日でした。
シチリアのパンや手打ちパスタが美味しいのは、小麦自体の風味がしっかり残っていて「美味しい粉」であることも事実ですが、「粉の鮮度」にも関係していたわけです。
トラーパニの多くの人達が粉を買うのはパン屋さん。
パン屋さんは製粉所から挽きたての粉を購入します。
そして大量の粉を使うパン屋さんは保管している粉の回転も早く、挽きたての粉を買う事ができるのです。
私も例に漏れずパン屋さんで粉を買いますが、袋を開けた時にフワっと漂う粉の香り…。
時間が経った粉では感じる事のできないなんとも言えない幸せな香りなのです。

その日、友人が挽きたての粉を使って焼いてくれたパンの香しさといったら…。
10年以上経った今でも鮮明に覚えているほどです。

  • 古代小麦を挽くための石臼の製粉機。
	古代小麦を挽くための石臼の製粉機。
  • トラーパニは石窯を使うパン屋さんが大多数。
	トラーパニは石窯を使うパン屋さんが大多数。
  • シチリアのパンはゴマがたっぷり!古代小麦を使っていなくてもシチリアのパンは美味しい!シチリアのパンはゴマがたっぷり!
    古代小麦を使っていなくてもシチリアのパンは美味しい!

シチリアを旅した方から「パンが美味しかった!」という感想を多く頂きます。
今号は古代小麦について詳しく書きましたが、古代小麦を使っていないシチリアの普通のパンが本当に美味しいのは、粉自体が美味しく香り高く、鮮度が良いから。
シチリアを旅する機会があったら、その街のお気に入りのパン屋さんを見つけてみてください。
対面方式のシチリアのパン屋さんは、最初はちょっと戸惑うかもしれませんが、「チャオ!(こんにちは!)」と大きな声で挨拶すれば大丈夫!
そんな地元の人達とのちょっとした交流も、パンの美味しさと共に旅の想い出となることでしょう。

レシピ

パーネ クンサートゥ

パーネ クンサートゥ

今月の料理は「パーネ クンサートゥ」をご紹介します。 パーネ クンサートゥはシチリアの言葉で「調味したパン」という意味。トマト、アンチョビ、ペコリーノチーズ(羊のチーズ)、オレガノなど、シチリア食材をシチリアのパンにたっぷりと挟んだこのパン。トラーパニのご当地パニーニです。本場ではオリーブオイルをレシピの2倍量くらいパンに染み込ませませますが、今回はオイルを少し控えめにしてポッカレモン有機 シチリア産ストレート果汁をたっぷりと染み込ませました。小さな一切れにシチリアの味がギュっと詰まっています。 レシピはこちら

佐藤礼子佐藤礼子 (Reiko Sato)
ラ ターボラ シチリアーナ主宰。シチリア島トラーパニ在住。シチリア料理・菓子 スペシャリスト。イタリア料理・菓子の知識を生かし、大手企業で洋菓子の商品開発、カフェの店舗企画に従事。2004年、シチリア(イタリア)食文化を学ぶため、イタリアに渡り、現地にてシチリア郷土菓子や家庭料理を研究しながら、食に関するコーディネートや通訳などで活躍しています。
「ポッカレモン有機 シチリア産ストレート果汁」を使ったレシピを監修していただいています。

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